Monday, July 16, 2012

Wordfast Pro 試用


以前の記事で書いたように、Wordfast Classic を「ぱらぱら」と組み合わせて使うやり方が、とりあえずうまくいったのですが、忙しくなると、つい EmEditor に戻ります(笑)。このところ、ずっとそんな感じ。それにもちょっと飽きたので、変わったことをしてみようと、今回は、Wordfast Pro を使ってみました。

ちなみに、慣れた分野の英訳案件であれば、SimplyTerms で用語置換しておいて EmEditor 上で並べ替えるという方式が、手っ取り早いです。特許は装置の構成要素とかに、いちいち参照番号が付くのですが、SimplyTermsで用語置換すれば、構成要素の名称と参照番号との間に、スペースがちゃんと入ります。そうした符号付きの構成要素を、どんどん並べ替えていけば、タイピングも少なくてすみます。それに、EmEditor(テキストエディタ)のスニペット機能が、かなり便利です。

ただ、このやり方だと、置換済の用語(英語)に日本語が混ざった、ちょっとグロテスクな文章?を、一日中眺めることになります。それに、「常に原文を参照すべし!」…と思いながらも、ついつい目が離れ、翻訳画面に集中して、カーソルとシフトキーで、バッタン、バッタン…と、自動並べ替えマシンになってしまいます。「マシン」だけあって、スピードは出るんですが…。

それに、このところ、過去の翻訳データを対訳形式で蓄積することも考えているので、なるべく翻訳メモリを使うようにしたいわけです。

Wordfast Pro は、Classic と違って、原文と訳文が左右に並ぶ形式。Trados の新しい製品も左右対照式で、以前、ちょっと使ってみる機会がありましたが、文章がブツ切りになった感じで、好きになれませんでした。

そんな感じで、左右対照式には抵抗があったのですが、Wordfast Pro の画面は、とてもすっきりしています。操作もClassic で慣れていたためか、直感的に使えて驚きました。和英翻訳の場合、左右対照式よりも上下対照式の方がよいと、いまだに思ってはいますが、Wordfast Pro は、レイアウトがシンプルなためか、文章の「ブツ切り感」を感じません。使っていると、すぐに慣れてしまいました。

しかも、Classic で不満だったグロサリが、ちゃんと機能するのです! 「携帯電話端末」と「携帯電話」というように、一方が他方を含むような用語でも、両方ともキッチリ認識します。最初だったので、用語認識にはかなり警戒しつつ、仕上がり1万ワードほどの和英案件を訳してみたのですが、認識機能の不備には気づきませんでした。なので、用語置換して並べ替えるという裏ワザに頼ることなく、オーソドックスな翻訳メモリとして、ふつうに使いました。

ちょっと困ったのは、最初に用意したグロサリが、文字化けしたことです。これは、元のファイルを Shift-JIS で保存していたためかもしれません。試しにUTF-8で保存しなおしたところ、ちゃんと認識してくれました。

「用語置換+並べ替え」方式は、タイピングの負担が減る反面、ベタベタ打っていく自然なリズムが崩れるので、あまり好きではないのです。その点、Wordfast Pro だと、頭から気持よく打っていけるし、グロサリ中の語句なら、先頭の文字をいくつか打つだけで、入力支援がポップアップしてくれます。これもかなり便利。グロサリの作り方次第で、入力がかなり楽になります。

他に気になったのは、固定要素(placable)の扱いが、Classic と違うところ。Classic では、参照番号を固定要素として認識し、メモリがヒットしたときも、固定要素については、原文に合わせる形で加工してくれます。これが便利でした。ところが、Pro では、参照番号のようなものは、固定要素として認識してくれません。なので、自分で入力することになります。ここでも、入力支援がポップアップするのですが、ベタ打ちの方が早いかも…。

それに、Word マクロで組まれているClassic とは違い、Pro はふつうのプログラムなわけで、挙動も安定してますし、思った通りに気持よく動きます(アタリマエではありますが…笑)。

あと、キーバインドの関係で、「Ctrl + カーソル」はできるのですが、「Ctrl + Shift + カーソル」が効かないのです。なので、単語単位の移動はできても、範囲選択は文字単位になるので、ついマウスに手が伸びたり…。これはちょっとしたストレスでした。ただ、基本的にベタ打ちで、並べ替えやコピペ作業自体が少なくて済むので、そんなに困るわけではないです。今回は、デフォルトのキーバインドのままでしたが、今後、どこまで改善できるかやってみようと思います。

それから、ウェブ検索や辞書検索のマクロが使えないので、これもどうにかしたいです。クリップNOTEとか、クリップボード経由のソフトをうまく使うとよいかもしれません(くまさんのブログで勉強するつもりです)。スニペット的な機能も、組み込めるといいんだけど…。

Pro での翻訳作業は、ちゃんとした和文を見ながら、頭からタイピングというリズムで、とても楽しく、「一文を訳して一文をチェック」という、丁寧なやり方が自然にできます。「用語置換+並べ替え」でスピードが出過ぎると、都度の訳文チェックが面倒になり、最終チェックの負担が重くなりがちでした(私だけかもしれませんが…)。

今回は、一文ずつきちんと見ていたので、単純な翻訳速度自体は落ちましたが、最終チェックがかなり楽でした。大きな直しがない分、細かいところにも目が届く感じです。翻訳の仕事は、とても好きなのですが、このチェック作業だけは気が向かなくて、いつも困っていました。でも、上流の工程を丁寧にやっておけば、チェックもあまり苦にならないようです。

まだまだ改善の余地がありますが、とりあえず、Wordfast Pro での翻訳作業は、かなり気に入りました。Pro という名前ですが、Classic 同様、無料のままでもちゃんと使えます。というか、メモリの蓄積が少ないうちは、全く同じように使えるわけです。今のところ、Pro も無料で試用中ですが、これなら、購入してもよさそうです。Trados と違って、手頃な料金ですし(笑)。Classic は登録せずに、Pro だけ購入するつもりです。

これからは、Pro を使いながら、日々、対訳データを蓄積してみようと思います。Wordfast は(Classic も Anywhere もそうですが)、メモリやグロサリを、テキストファイルで保存してくれるので、テキストエディタで手軽に読めますし、二次利用も楽です。

日本ではWordfast ユーザが少ないようですが、もっと利用されてもよいと思います。Trados は、開発の方向性が疑問だし、いろいろフォーマットを変えたりするので、個人で付き合うには負担が重いです(私の場合…)。翻訳メモリの導入を検討している方は、是非、Wordfast Pro も試してみて下さい。

Thursday, July 5, 2012

「一方」とパラグラフ

日本語では、パラグラフの冒頭に「一方」という表現がよく出てくる。英訳の際、これの扱いに困ることが多い。以前の記事にも書いたのだが、トム・ガリー氏によると、on the other hand は、「通例、異なる二つのものを比較するのではなく、同じ物の中の異なる要素、特にその善し悪しを比較するときに使う。」とのこと。日本語の「一方」は、「異なる二つのものを比較する」のにもよく使うわけで、多くの場合、on the other hand とは訳せない。

英語のパラグラフは、意味上の単位になっているから、パラグラフが新しくなって(意味が切り替わって)、その冒頭に On the other hand がくるというのは、本来の用法から外れている可能性が高い。on the other hand を挟んだ前後の両要素は、意味の単位内(つまり、同一パラグラフ内)で対照されるのが自然だと思うので。要するに、パラグラフ冒頭の「一方」は、on the other hand と訳せないことがほとんど、というように私は理解している。

ところが、今日のJapan Times の記事に、パラグラフ冒頭での用例を見つけた(一部強調)。
"I don't think anyone from our side ever ordered someone to join our group against his or her will," Azuma told reporters. "We are politicians, and in this sort of situation, we should decide our future ourselves."
On the other hand, Gaku Kato, a Lower House lawmaker who previously said he would remain in the DPJ, announced Wednesday he will join Ozawa.
筆者は staff writer で、お名前からすると、日本人のような感じ(推測です…)。もちろん、私には書けないようなしっかりした英語なのだけど、勉強中の身としては、このパラグラフ冒頭の On the other hand が気になる。

前後も読んでみると、パラグラフが短いところが、和文を思わせる。そして、この on the other hand も、日本語の「一方」がぴったりくる。

ふつうの日本語では、パラグラフ・ライティングという意識は希薄だし、段落が意味の単位とも限らない。なにしろ、小学校の頃だろうか、教科書の文章を、形式段落と意味段落なるものにに分ける、という作業をさせられた覚えがある。日本語の段落は、基本的に短くて、それぞれを形式段落と呼ぶらしい。そして、こうしたセグメントがいくつか集まって、ひとつの意味の単位になる。つまり、(たいていは)複数の形式段落が、一つの意味段落を構成するわけだ。

そんな和文の感覚で見てみると、この記事では、On the other hand より前のパラグラフで東氏のことを語り、On the other hand 以降の複数のパラグラフが、加藤氏についての意味段落になっている。と、こんな感じで、和文的な雰囲気。

私の英語力では、この記事を(英文の観点で)正しく評価することはできないが、これを読んでいて、和文と英文を書く時の感覚の違いのようなものを自覚させられた。

翻訳の際には、長い文章を切ったり、場合によっては、二文を一つにつなげたりすることはあるが、パラグラフに手を入れることはない。つまり、どこまで頑張っても、自分の書く英訳文は「日本語」(というか「和風」)の範疇を出ることがない…と思うわけです。ちょっとツマラナイ気もするけど、それが(ひとまずは)翻訳(英訳)の限界だし、まずはそれをキッチリできるように精進したいと、改めて思った。

ただ、「自分のやっている英訳作業は、英文ライティングとは違うのだ」ということは、自覚しておかないといけないな。